Icom ID-1 Report
アイコム デジタルトランシーバ ID−1使用レポート
第1回:ID-1の紹介
ID-1登場
ID-1はこれまでのアナログFMモードだけでなく,JARLが推進
しているD−STAR(アマチュア無線のデジタル無線通信計画)
で用いられるデジタルモードも運用可能な1200MHz帯モービ
ル型トランシーバです.
ID-1は3つの運用モードを備えており,そのそれぞれの特徴は次の通りです.
- FMモード:アナログFMモード
-
1200MHz帯では定番のアナログFMモードです.
マイクに入力された音声が相手局まですべてアナログで伝わります.
ダイヤルで周波数(チャンネル)を合わせてPTTスイッチを押す
だけで,きれいな音声通信ができます.
もちろん,レピータを利用する周波数に合わせると,電波発射時に
自動的にレピータシフトされる機能もあります.
また,1200MHz帯以上になるとトランシーバの発射する電波の周波数
が多少ずれが出てきます.そんな時に頼りになる「AFC」機能も実装
されています.相手局の周波数が多少ずれていても,受信周波数を
自動的に追従させ常にきれいな音声が受信できます.
このモードにすれば通常のFMトランシーバに備えたほとんどの機
能が実現できます.
電波形式は「F3E(旧F3)」です.
- DVモード:デジタル音声モード
- 音声をディジタル化(離散化)し,ディジタル変調をかけて相
手局に送信し,相手局でデジタル復調して音声を伝えます.ディジ
タル化された場合の占有周波数帯域は一般に広くなるのですが,そ
れを抑えるためにCODEC(デジタル・アナログ変換装置)で帯域を圧
縮しています.そのため,多少FMモードよりゴワゴワした音声に
なりますが,音声としては十分です.
また,このモードではデジタル音声でデータをやりとりしながら,
その裏でデジタル通信を行うこともできます.
このモードの電波形式は「6K00F7W」です.
はじめの「6K00」は占有周波数帯域を表します.
- DDモード:デジタルデータモード
- デジタルデータを扱うモードです.パソコンを無線機に接続し,あ
たかも無線LANのように利用することができます.パソコンにI
Pアドレスを設定して,ファイル共有等,インターネットで行われ
ているさまざまなプロトコルが利用できます(できそうです).
このモードの電波形式は「150KF1D」です.
はじめの「150K」は占有周波数帯域を表します.
150KHzも帯域をつかうのですね.
ID-1は本体,コントローラRC-24,スピーカSP-22が別々になってい
ます.
コントローラなしでマイクを直結して運用することもできます.
このときのID-1の制御は,本体から出ているUSB端子を使って,パソ
コンから行います.
逆にコントローラがあれば,パソコンなしでほとんどのことができ
ます.ただ,最近の無線機は機能が多く,コントローラのボタンが
小さかったり,ボタンを長押ししないと機能設定ができなかったり
といろいろ大変です.パソコンの方が便利かも知れません.
また,ID-1にはRJ-45のモジュラー端子がついており,パソコンのネッ
トワーク端子(最近はブロードバンド端子とも言います)に接続す
ることもできます.この端子を使って,パソコンのマルチメディア
情報をアマチュア無線を使って共有することもできます.
各運用モードの比較
それでは,各運用モードの比較をしてみましょう.
ID-1を2台用意し,1台を送信用,もう1台を受信用として聞いてみることにします.
まずは,FMアナログモードとDV音声モードを比較してみましょ
う.
前半は付属マイクでアナログFMモードで送信し,それを受信し復
調したもの,
後半は付属マイクでDVモードで送信し,それを受信し復調したも
のです.
携帯電話等で聞くのと同じように,DVモードではちょっとばかり
デジタルっぽいですね.
FMモードではスケルチ回路を効かせているので,相手局がPTT
を離した時に一瞬「シャッ」というホワイトノイズが入ります.一
方DVモードではPTTを離しても何も音がしません.そのため
ID-1には俗に言う「スタンバイピー」が入っています.もちろん,
スタンバイピーを設定で止めることもできます.
次に,伝送遅延ついても比較してみましょう.
アナログFMモードは回路が単純で,音声が変調され,相手局に到
達し,再び音声に復調されるのにほとんど時間がかかりません.
一方,デジタル変調は,アナログ音声を一旦デジタルデータに変換
し,伝送し,それを再びアナログ音声に復調しおり,多くの回路を
通りデータが処理されています.
このデジタルデータとアナログデータの変換(コード化とデコード
化を合わせてコーデックと呼びます)には高性能なICを使って
はいますが,多少変換時間がかかっているようです.
もちろん,空間を電波が伝搬する時間はアナログもデジタル
も同じですので,この差はやはりコーデックの処理時間と考えられ
ます.
それでは,デジタル音声モードの伝送遅延(ずれ)がどの程度ある
か聞いてみましょう.大きな声のほんの少し前に聞こえる小さな声
が送信者の声です.明らかに伝送に時間がかかっていることがわか
ります.
海外との衛星通信によるテレビ報道等で伝送遅延を感じますが,今
では誰もが慣れていますね.ID-1のこの程度の遅れでは実際の交信
にはほとんど影響はありませんが,普段ほとんど遅れなくアマチュ
ア無線をしている我々にとっては,少しばかり慣れが必要かもしれ
ませんね.(携帯電話で十分慣れている人もいるかも知れませんが)
次に,DVモードの変調をFMで聞くとどうなるか試してみまし
た.言っていることは,これまで聞いていただいた内容と同じです.
もちろんモードが違うので何を言っているかはわかりませんね.声
があるところとないところでは,多少強弱や音の高低が変化するか
と思えばそうでもないようです.GMSK方式なので,データが1つの
値に偏らず拡散するようになっているからだと思います.
ここで一つ素晴らしいことを発見しました.
20kHz離れた周波数でこのDVモードの変調を聞いていても,ほとん
どスケルチが開かないことです.
仕様によると,最大周波数はアナログFMモードが±5kHzであ
るのに対して,DVモードが±1.2kHzです.コーデックの
音声圧縮が効いており,アナログFMモードと同じように20kHzごと
にチャンネルができそうです.
最後にDDモードについてですが,帯域が広すぎてFMで聞いても
何も聞こえません.
ちなみに,DDモードの最大周波数偏移は±32kHzです.128kbpsの
データ通信をするのですから,これくらいの帯域は使ってしまいま
す.やはり高速データ通信には帯域が必要ですね.
ID-1の楽しみ
JARLのD-STAR計画を実現するために登場したデジタル無線機ID-1で
すが,これまで行っていたモードや機能を減らすことなく,新しい
モードが2種類も追加された無線機で,とても期待しています.
以下では,ID-1を単独で使う方法から,デジタルレピータ,
アシスト局を利用したデジタル中継等,高度なデジタルモードの楽
しみ方を実例を含めながらご紹介したいと思います.
進む:「第2回:ID-1を本体単独で使ってみよう」へ
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2004.03.23.(初版作成)
2004.04.30.(最終更新)
fmiso@sccs.chukyo-u.ac.jp